高一の春は慌ただしく過ぎていき、気付けば季節は初夏に差し掛かっていた。新生活はそれなり。けれど目まぐるしい日々を送っている。
「告白しないの?」
のほほんとした声の、けれどなかなかに鋭い質問がスピーカー越しに刺さる。
「ちょっとベル! 突然変なこと言わないでよ」
にんまり顔の幼馴染をスマホ越しに窘めたが、彼女はそれを軽く受け流しさらに話を進めていった。
「だってナマエ、学校離れてから全然話してくれないんだもん」
「そんな事言われても……何にもないんだから仕方ないじゃん」
何も無い。というのはもちろんトウヤとの事で、私はシャーペンをノートへ放り投げ、ぼそりと呟くように絞り出した。
「同じクラスなのに?」
「お互い新しい友達といる事が多くて、なんとなく話しかけづらい……、っていうか」
昔ほど共通の話題がある訳でもなく、席が近い訳じゃない。昔のように声をかける事も躊躇ってしまい、気付いた時にはトウヤが少し遠く感じるようになっていた。
そんな事をぽつりぽつりと零していると、先程まで前のめりで話を聞いていたベルはすっかり大人しくなっていて、私の言葉を静かな相槌で繋いでくれる。
「だから、あんまり話せてないの」
「……そっか」
短く落ちた相槌を最後に会話が途切れる。画面の奥のベルは、一瞬何かを考え込み、すぐに顔を上げて口を開く。
「あのね? ずっとナマエが言わなかったから、聞かなかったんだけど」
「? うん」
「ナマエはさ、この先どうなりたい、……とかあるの?」
数分前までの揶揄うような声色ではなく、珍しく真剣に、はっきりとしたベルの声がスピーカーを震わせる。
すぐに答えることが出来なかった。ベルの言いたいことが分からない訳じゃない。付き合いたいとか、好きになって欲しいだとか。彼女はきっと、そんな答えを私から引き出そうとしている。
「分かんない。ほら、私たちみんな、ずっと一緒だったからさ……」
トウヤの事を好きになるより前から幼馴染として近くにいた。トウヤだけじゃない、ベルとチェレンも。みんなでずっと兄弟のように育ってきた。
「だから……、今更どうなりたいとか、具体的なイメージが作れなくて」
だからこそ、蕾すら付かずに育ち続けているこの気持ちを持て余しているのだけど。
「ナマエ。あのね? ずっとなんて無いんだよ」
「それは分かってるけど」
スピーカーの向こうで、小さく息を吐く音がする。
「私もね、ずっとみんなとは同じ学校だと思ってたの。――だけどそうじゃないでしょう?」
柔らかい声色はそのままに、その言葉だけが妙に現実味を帯びていく。私はまた何も言え無くなってしまった。
「環境って案外簡単に変わっちゃうんだ、って思ったの。クラスも、友達も、生活も」
ゆっくりと聞かせるように、けれどいつもとは違うはっきりとした声が続く。
「ねえナマエ。もしこのまま何も変わらなかったらさ」
「うん」
「トウヤが誰かと付き合っても、……ナマエはちゃんと仕方ないって思えるのかな?」
その光景を頭に浮かべようとして、だけどやっぱりうまく形にはならなかった。想像がぼやけたまま言葉だけが喉の奥でつっかえる。
「……まだ、分かんない」
ぽつりと落とした声は、自分でも驚くくらい頼りなかった。そんな私を見て、ベルが少しずつ表情を緩めていく。
「そっか」
それ以上は何も言わなかった。それが余計に、胸の奥をじんわりと締め付けた。