さよならと星空と

 枕元に微かな振動を感じ目を覚ます。カーテンの向こうはまだ薄暗い。部屋の隅の時計へ目線をやれば、長い針はまだ数字の4と5の間くらいを指し示していた。
 いつもならぐっすりと寝ているはずのこの時間。睡眠を妨害したピンク色のライブキャスターを手に液晶を覗けば、そこには秒刻みの着歴がずらりと並んでいて目を覚ました事を軽く後悔してしまう。
 再び規則的なリズムで震度を始めるライブキャスター。もちろん相手は鬼電の犯人であるトウヤからなのだが、こんな朝早くに彼女の睡眠を妨害してまで一体何用だというのか。このまま見なかったことにして意識を飛ばしたいとげんなりしてしまうが、あとが怖いのでため息をつき応答した。

「何時だと思ってんのよ……」
「四時半」

 全く悪びれた様子がないトウヤに、いつもならそういう事じゃないと言い返すのだが生憎寝起きであまり頭が回っていない。あくびを噛み殺しながら要件はなんだと聞くのが精一杯だった。

「今からシンオウ地方に行くから」
「また?!やっとカントーから帰ってきたと思ったら」
「お前も行くから十五分で支度して。あっ、荷物最小限でいいからな」
「えっ……、待ってどういうこと?」

 今から向かえにいくからヨロシク、なんて言い捨て一方的に通信を切られてしまう。
 昔から話なんて聞かない男だったが、最近さらに拍車がかかった気がする。まさに暴君。
 そもそもなんでこんなに朝早くからシンオウ地方に行くなんて言い出したのか。話も聞かない報・連・相すらろくにできない奴とどうして付き合ってるんだろう……。
 まあ一言もなくカントーに行ってしまった半年前のことを考えたら今回は連絡がきただけマシだと思いたい。ジムバッチを3つゲットしたらしい頃に、今カントーにいるんだけどなーと何でもないように切り出された時は流石に開いた口が塞がらなかった。
 イッシュはちょうど桜が満開に咲いてる季節だが、シンオウはとても寒い地方だと雑誌で読んだことがある。もしかしたらまだ雪が残っていたりするのだろうか。荷物をまとめたリュックとコートを手に玄関を出る。空もまだ暗いし気温も低く、首元を掠めた外気に体が縮こまる。慌ててコートを羽織ったがあちらはもっと寒いのだろう。

「ナマエ、久しぶり」

 顔を上げるとウォーグルに乗ったトウヤがひらひらと手を振っていた。直接会うのは半年ぶり。たまにライブキャスターで連絡は取っていたが、こうして実際に顔を合わせるとなんとなく気恥ずかしいさを感じてしまう。

「まず言いたい事がたくさんあります」
「だろうな。けどあんま時間ねーからとりあえず乗って」

 ウォーグルの上から伸びてきた手に力強く引っ張り上げられる。落ちるなよと声をかけられた直後にふわっとした浮遊感が全身を包んだ。久しぶりのこの感じ。
 前と違うのは落ちないように私を抱えている腕が少したくましく感じたことだろうか。半年で身長もまた伸びたようだ。背中に感じる体温が変わらない事に少しだけ安心した。

「なんでいきなりシンオウに行くなんて言い出したの?」
「シンオウに行きたいって随分前に言ってたろ?その話をなんかの流れでシロナさんにしたらさ、案内するから2人で是非ってチケット送ってくれた」
「え、アレ覚えてたの?!」
「たまたま思い出しただけ。よかったな念願叶って」

 そう言って笑うトウヤに面食らう。まさか、彼にこんなサプライズをされるとは。カント―行きを知らされなかったことに対して内心怒っていたのだけど、そんな事吹き飛んでしまった。
 観光なのかそのまま旅をする気なのか、どちらにせよトウヤと一緒に居られるのはなんだかんだで嬉しいのだ。にやけた顔を見てトウヤが不細工になってんぞなんて言い放ったが、それは聞こえなかったことにしてまだ見ぬ異国の地に想いを馳せることにした。